トラックマン(TrackMan)は、元々軍事用ミサイル追尾システムに用いられていた「ドップラーレーダー技術」を応用した高性能な弾道測定器です。 野球では投球の回転数や飛距離、ゴルフではクラブヘッドの動きやボール初速などを瞬時に数値化し、選手の能力向上や戦術分析に欠かせないツールとなっています。 この記事では、30〜50代の男性が「トラックマンとは」の基本から、野球・ゴルフでの具体的な活用法、話題になる「誤審(判定精度)」との関係までを深く理解できるように解説します。
トラックマンとは何か・仕組みと特徴
トラックマンはデンマークの企業が開発した計測機器で、ボールの動きをレーダーで追いかけることで、目に見えないデータを数値化します。 その精度の高さから、世界のトップアスリートや指導者が「正解」を知るための基準として採用しています。
ドップラーレーダー技術による測定
トラックマンの核心技術は「ドップラーレーダー」です。
- 仕組み: 救急車のサイレンが近づくと音が高く、遠ざかると低く聞こえる「ドップラー効果」と同様に、レーダー波をボールに当て、跳ね返ってくる波の周波数変化を読み取ります。
- 特徴: ボールの位置だけでなく、速度、スピン量、移動方向を直接かつ高精度に計測できます。
- 最新機種: トラックマン4などは「デュアルレーダー」を搭載し、ボール追尾用とクラブ(または身体)計測用の2つのレーダーで、より詳細なデータを取得します。
なぜ映像(カメラ)ではなくレーダーなのか
カメラ式(ホークアイなど)とレーダー式(トラックマン)には決定的な違いがあります。
- レーダーの強み: ボールの回転数や回転軸、着弾までの全軌道を「実測」することに長けています。特にゴルフのスピン量計測では圧倒的な信頼性があります。
- カメラの強み: 選手の骨格の動き(バイオメカニクス)や、3次元空間上の位置特定に優れています。
野球におけるトラックマンの活用
野球界では2015年頃から「フライボール革命」と共にトラックマンの導入が爆発的に進みました。 現在、NPB(日本プロ野球)でも多くの球団が本拠地に設置し、チーム強化に活用しています。
投球データの可視化(回転数と質の評価)
かつて「キレ」や「ノビ」と呼ばれた感覚的な評価が、トラックマンによって明確な数値になりました。
- 回転数(スピンレート): ストレートの回転数が多いほど、重力に逆らって落ちにくい(ホップする)球質とされます。
- 回転軸(スピンアクシス): ボールがどの方向に回転しているかを示し、変化球の曲がり幅を設計するのに使われます。
- リリースポイント: 投手がボールを離す位置をセンチ単位で計測し、フォームの安定性をチェックします。
打球データの解析(フライボール革命)
打撃面では「バレルゾーン(長打になりやすい速度と角度の組み合わせ)」の発見に貢献しました。
- 打球速度(Exit Velocity): 速い打球ほどヒットになる確率が高まります。
- 打球角度(Launch Angle): 適切な角度(20〜30度付近)で上げることで、ホームランの確率を最大化します。
- 飛距離: 着地点までの正確な飛距離を計測します。
ゴルフにおけるトラックマンの活用
ゴルフはトラックマンが最初に普及したスポーツであり、PGAツアープロの多くが練習に取り入れています。 「感覚」と「現実」のズレを修正するために不可欠なツールです。
重要な指標「スマッシュファクター」
ゴルフで最も重視される指標の一つが「スマッシュファクター(ミート率)」です。
- 計算式: ボール初速 ÷ クラブヘッドスピード
- 目安: ドライバーでは「1.50」が理想値(理論上の最大効率)。
- 活用: 力一杯振るのではなく、いかに効率よくボールにエネルギーを伝えているかをチェックします。
クラブフィッティングと弾道解析
自分に合ったクラブを選ぶ際にもトラックマンは必須です。
- クラブパス: クラブがボールに対してインサイドから入っているか、アウトサイドからか。
- フェイスアングル: インパクト瞬間のフェースの向き。
- これらを組み合わせ、なぜスライスやフックが出るのかを科学的に分析し、最適なシャフトやヘッドを選定します。
トラックマンと「誤審」・判定精度の関係
野球では「AI審判(ロボット審判)」の導入議論に伴い、トラックマンの精度が注目されていますが、いくつかの課題も存在します。
ストライク・ボール判定への活用
アメリカのマイナーリーグや日本の二軍戦では、トラックマン等のトラッキングシステムを用いた「自動ボール・ストライク判定システム(ABS)」の実験が行われています。
- メリット: 審判ごとのゾーンのばらつき(可変ゾーン)がなくなり、公平性が保たれます。
- 現状: NPBでは、試合後の審判へのフィードバック資料としてトラックマンデータが活用されています。
レーダー方式の弱点と誤検知
トラックマンは万能ではなく、レーダー特有の弱点があります。
- 雨の影響: 強い雨粒を検知してしまい、データが欠損することがあります。
- 乱反射: ドーム球場の金属屋根やフェンスなどでレーダー波が乱反射し、エラー数値が出ることが稀にあります。
- MLBの動向: MLB公式データシステム(Statcast)は、2020年からレーダー式のトラックマンから、光学式カメラの「ホークアイ」へ切り替えられました。これは守備位置や選手の骨格追跡など、より広範囲なデータを取得するためですが、投球・打球の純粋な「数値計測」としてはトラックマンも依然として一級品です。
よくある質問(FAQ)
- トラックマンは個人で購入できますか?価格は?
購入可能ですが、非常に高価です。
プロ仕様の「TrackMan 4」は数百万円(約250万〜300万円以上)しますが、最近は個人練習用の小型モデル「TrackMan iO」や、ゴルフ練習場向けのシステムも展開されています。- トラックマンとホークアイ、どちらが優れていますか?
「用途」によります。
スピン量や飛距離の精密な「計測」にはレーダー式のトラックマンが強く、選手やボールの3次元的な位置関係の「空間把握(判定)」にはカメラ式のホークアイが適しています。 そのため、併用されることも多いです。- トラックマンのデータはテレビ中継で見られますか?
はい、見られます。
プロ野球中継で画面に表示される「球速」「回転数」「打球速度」などのデータは、球場に設置されたトラックマン(またはホークアイ)のデータをリアルタイムで連動させて表示しているケースがほとんどです。
まとめ
トラックマンは、軍事技術のドップラーレーダーを応用し、野球やゴルフの世界を「感覚」から「数値」へと変革させた測定器です。 野球では回転数や打球角度による技術向上、ゴルフではスマッシュファクターによる効率化に貢献しています。 MLBでは公式記録用としてはホークアイに移行しましたが、その計測精度の高さから、依然として多くの選手や指導者にとっての「正解を示す物差し」であり続けています。




